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1億2500万年前の眠りから覚めた「寐竜(メイ・ロン)」:古生物学史に残る奇跡の睡眠化石
メイ(学名: Mei long)は、白亜紀前期(アプチアン期初頭・約1億2500万年前)の東アジア、現在の中国・遼寧省に生息していた極めて小型の羽毛恐竜(獣脚類・マニラプトル類・トロオドン科)です。骨格の形そのものだけでなく、生前の恐竜が「どのように眠っていたか」という行動生態(エソロジー)を、まるで写真で切り取ったかのように3次元で現代に伝えた、世界的に有名な奇跡の化石標本として知られています。
ホロタイプ標本(IVPP V12733)は、中国・遼寧省北票市の陸家屯(Lujiatun)近郊に広がる義県層(Yixian Formation)の下部層から発掘されました。2004年10月、中国科学院古脊椎動物古人類研究所(IVPP)の徐星(Xu Xing)博士と、アメリカ自然史博物館のマーク・ノレル(Mark Norell)博士によってイギリスの科学誌『Nature』に発表されました。属名の「メイ(Mei)」は中国語で「ぐっすりと眠る」を意味する漢字「寐(めい)」、種小名の「ロン(long)」は「竜(龍)」を意味し、学名全体で「眠る竜(寐竜:メイ・ロン)」という詩的な名前が与えられました。また、属名と種小名を合わせてもアルファベットわずか7文字(Mei long)という、恐竜の中でも指折りの短い学名としても親しまれています。
実寸サイズと愛らしいスケール:全長約0.5メートル・全高約0.2メートルの小鳥・アヒルサイズ
メイのホロタイプ標本(成長途上の若い成体〜亜成体)および第2標本から算出される実寸サイズは、全長約0.5メートル(約40〜53センチメートル)、水平に立った姿勢における腰高での全高約0.2メートル(頭を上げた頭頂高で約0.25メートル)、推定体重約1キログラム(約0.5〜1キログラム)という超小型サイズです。
現代の成人男性(身長約1.7メートル)とメイが並んだ場合、その背中の高さ(全高約0.2メートル)は大人のくるぶしからすねの下部にしか届かず、長い尾を含めた全長約0.5メートル、体重約1キログラムという体格は、現代のカルガモや小型のアヒル、あるいはハトを一回り大きくした程度の文字通り「手のひらから両腕に収まるサイズ」です。しかし、この極小の体にはトロオドン科特有の非常に長い後肢(すねの骨と足の甲)が備わっており、ひとたび目を覚ませば森林の地面を小鳥のように素早く軽快に走り回ることができました。
頭を腕の下に入れて丸くなる「タック・イン」姿勢:鳥の行動と恒温性を裏付ける決定的証拠
メイの化石が世界中の科学者に衝撃を与えた理由は、死後の硬直や水流で歪んだ姿勢ではなく、完全に関節がつながった左右対称の「丸まった睡眠姿勢」で立体的に保存されていたことです。
具体的には、左右の後肢を折りたたんでお腹の下に座り込み、前肢(腕)を鳥の翼のように体の横にたたみ、しなやかな長い首を左後ろへぐるりと曲げて、左の肘(前肢)の下に頭をすっぽりと差し込んでいました。さらに長い尾は体を取り囲むように前へと丸められていました。この「頭を翼の下に入れて眠る姿勢(タック・イン姿勢)」は、現生の鳥類が睡眠中に頭部から熱が逃げるのを防ぎ、体温を維持するために行う行動と寸分違わぬものです。のちに発見された第2標本(DNHM D2154)も全く同じ丸まった睡眠姿勢で化石化しており、これが偶然ではなくメイの日常的な眠り方であったことが証明されました。この発見は、体表面積の割合が大きくて冷えやすい小型の非鳥類恐竜が、鳥と同じ「恒温動物(内温性)」であり、羽毛と睡眠姿勢によって体温を保っていたことを示す強力な証拠となりました。
「白亜紀のポンペイ」陸家屯層の火山災害と、小さな森のハンターの暮らし
なぜメイは死に際に苦しんで暴れた形跡もなく、穏やかに眠ったままの姿で化石になったのでしょうか。その秘密は、化石が産出した義県層の「陸家屯部層」の特殊な成り立ちにあります。当時の遼寧省は活発な火山地帯であり、メイは地面に掘った浅い巣穴や茂みの中で丸くなって眠っている最中に、噴火に伴う火山灰の急速な降下や火砕流、あるいは火口から流れ出た二酸化炭素や有毒ガスによって、眠ったまま一瞬で窒息・埋没したと考えられています。この現象から、陸家屯は古代ローマの悲劇になぞらえて「白亜紀のポンペイ」と呼ばれています。
メイの頭骨は非常に小さく、吻部(鼻先)が短くて眼窩が極端に大きいという特徴を持っていました。上顎と下顎には小さな歯が隙間なく密生しており、薄暗い針葉樹やイチョウの森の林床で、その大きな目を活かして昆虫やクモ、ミミズ、小さなトカゲなどを素早く捕食する「肉食・昆虫食」のハンターとして暮らしていました。また、大きな鼻孔と鳥類のように発達した叉骨(ウィッシュボーン)を備え、原始的なトロオドン科がいかにして鳥類に近い身体構造を獲得していったかを示す重要な進化の証人となっています。