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恐竜の卵の聖地「アウカ・マウエボ」から現れた奇跡の全身骨格:発見と命名
アウカサウルス(学名: Aucasaurus garridoi)は、白亜紀後期(カンパニアン期・約8300万年前〜7500万年前)の南アメリカ大陸、現在のアルゼンチン共和国ネウケン州(パタゴニア北部)に生息していた中型の肉食恐竜(獣脚類・アベリサウルス科・カルノタウルス亜科)です。南半球を代表する肉食恐竜であるカルノタウルス(Carnotaurus)に極めて近縁であり、アベリサウルス科の中で最も完全に近い全身骨格が発見されたことで知られる学術的価値の極めて高い恐竜です。
ホロタイプ標本(MCF-PVPH-236)は1999年3月、ロドルフォ・コリアやルイス・キアッペらの合同調査隊が、竜脚類の巨大な営巣地(無数の卵化石や胚の皮膚印象が発見された場所)として世界的に有名なネウケン盆地アナクレト層(Anacleto Formation)の「アウカ・マウエボ(Auca Mahuevo)」を調査していた際に発見されました。地質学者アルベルト・ガリード氏が単独で歩いていた際、地面から露出した保存状態抜群の骨格を偶然見つけ出したのです。
2002年、コリア、キアッペ、ローウェル・ディンガスによって正式に記載論文が発表され、発見地にちなむ「アウカサウルス(アウカ・マウエボのトカゲ)」と、第一発見者のガリード氏を讃える種小名 garridoi を合わせて「アウカサウルス・ガリードイ(Aucasaurus garridoi)」と命名されました。この標本は頭骨から尾の第13尾椎までがほぼ完全に関節した状態で保存されており、それまでカルノタウルスでさえ不明だった下半身や足先の構造を一挙に解き明かしました。
実寸サイズと強靭な脚力のスケール:全長約5.5メートル・全高約1.9メートルの俊足ハンター
アウカサウルスのホロタイプ標本(成熟個体)に基づく実寸サイズは、全長約5.5メートル(約5.5〜6.0メートル)、水平姿勢における腰高での全高約1.9メートル(頭頂高約2.0メートル)、推定体重約700キログラムと算出されています。近縁のカルノタウルス(全長8〜9メートル・体重1.5〜2トン)と比較すると、体長は約3割小さく、体重は半分以下という引き締まった中型サイズでした。
現代の成人男性(身長約1.7メートル)がアウカサウルスと向かい合った場合、人間の頭上を越える全高約1.9メートルの分厚く筋肉質な腰回りと、全長約5.5メートル・体重約700キログラムの弾丸のようなボディが目の前に迫ります。カルノタウルスと同様に尾の付け根の骨(尾椎の横突起)が上向きに大きく張り出しており、そこに付着した巨大な「尾大腿筋(びだいたいきん)」が後ろ脚を強力に後方へと引き戻すことで、爆発的なダッシュ力を生み出していました。
カルノタウルスを超える「究極に退化した腕」と角を持たない低い眼窩上の隆起
アウカサウルスの解剖学的特徴の中で最も衝撃的だったのは、ティラノサウルスすら問題にならないほど極限まで縮小・退化した「前肢(腕)」の構造です。アベリサウルス科はもともと腕が短いグループですが、アウカサウルスの上腕骨に対する前腕(橈骨と尺骨)の比率はカルノタウルスよりもさらに短く、ボールのように丸まった極小の骨になっていました。さらに手首の骨(手根骨)は完全に消失し、中手骨に4本の指の骨が直接つながっていたものの、第1指と第4指には指節骨すらなく、外部からは「爪すらない小さな4本の突起が付いたコブのような腕」にしか見えなかったことが判明したのです。
一方、頭骨はカルノタウルスに似た前後に短く上下に高いボクサーのような形状をしていましたが、カルノタウルスほど極端ではなく、やや長めの吻部を持っていました。また、目の上にはカルノタウルスのような巨大な「雄牛の角」はなく、代わりに前頭骨が盛り上がった「低いゴツゴツした隆起(クレスト)」が存在しており、生時はケラチン質のパッドで覆われて仲間同士の頭突きやディスプレイに使われていたと考えられています。興味深いことに、ホロタイプの頭骨には生前に受けた外傷(噛み傷または打撲痕)が治癒した跡が残されており、激しい闘争を生き抜いた個体であったことがわかっています。
白亜紀後期パタゴニアの営巣地「アウカ・マウエボ」と竜脚類の幼体を狙う捕食戦略
アウカサウルスが生息していた約8000万年前のパタゴニア北部(アナクレト層)は、季節的な河川が流れる温暖で半乾燥した氾濫原でした。このアウカ・マウエボには、ティタノサウルス類の竜脚類が何千頭も集まって無数の巣を作り、直径15センチメートルほどの卵を産み落とす巨大なコロニーが形成されていました。
全長5.5メートル・体重700キログラムのアウカサウルスにとって、この広大な竜脚類の営巣地は絶好の狩場でした。巨大なティタノサウルス類の成体を倒すことは難しくとも、孵化したばかりの無数の幼体や亜成体、あるいは巣の周辺に集まる小型動物を、自慢の俊足と短い顎の素早い噛みつきで次々と狩っていたと考えられています。腕の機能を完全に捨て去り、頭部と脚力、そして強靭な尾の推進力にすべてを特化させたアウカサウルスは、白亜紀後期の南米大陸におけるアベリサウルス科の大繁栄を象徴する名ハンターでした。