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名前の由来と生息環境・分類
プラテオサウルス(学名: Plateosaurus)は、古代ギリシャ語で「平らな」「幅広の」を意味する「プラテュス(platys)」と、「トカゲ」を意味する「サウロス(sauros)」を組み合わせたもので、「平らなトカゲ(平らな骨を持つトカゲ)」を意味します。1837年、ドイツの著名な古生物学者ヘルマン・フォン・マイヤー(Hermann von Meyer)によってニュルンベルク近郊で発見された骨格に基づき模式種 Plateosaurus engelhardti として命名・記載されました。リチャード・オーウェンが1842年に「恐竜類(Dinosauria)」を設立した際に参照された最初期の恐竜の一つであり、恐竜研究黎明期を支えた歴史的記念碑です。
生息年代は中生代三畳紀後期(約2億1,400万年前〜2億400万年前、ノーリアン期〜レーティアン期)であり、中央ヨーロッパ(ドイツ、スイス、フランス、グリーンランド、北海海底)に極めて広範囲に分布していました。当時のヨーロッパは超大陸パンゲアの内陸部に位置し、広大な乾燥地帯とモンスーンによる雨季が交錯する半乾燥サバナ環境でした。分類学上は竜盤目竜脚形亜目、プラテオサウルス科(Plateosauridae)に属し、ジュラ紀に大繁栄する超巨大竜脚類(ブラキオサウルスやディプロドクスなど)の祖先筋にあたる「古竜脚類(初期竜脚形類)」の最高峰の代表格です。
人間との実寸サイズ比較・8メートルの三畳紀最初の巨人スケール
プラテオサウルスの成体は、全長約6.0〜8.0メートル(最大級の個体では10メートル近く)、推定体重は約2.0〜4.0トンに達しました。強靭な後肢で立ち上がり、長い首を持ち上げた姿勢での全高は約3.0〜3.2メートルに達します。
現代の成人男性(身長約1.7メートル)との実寸サイズ比較において、プラテオサウルスの全高約3.2メートルという高さは、人間の背丈のほぼ2倍に達します。三畳紀後期の陸上生態系において、これほど巨大な生物は他に存在せず、地球史上初めて「見上げるべき巨人」として地上に君臨した恐竜です。
後肢は頑丈な柱のように太く、前肢の親指には長さ15センチメートルを超える鋭い湾曲した鉤爪が備わっていました。人間が間近に対峙した場合、現代の大型のサイやアジアゾウが後ろ足で立ち上がり、上空3メートル以上の高みから悠然と見下ろしてくるかのような超重量級のスケール感と迫力に圧倒されることになります。
生態と完全二足歩行の真実・高木の葉を手繰り寄せる前肢の鉤爪
長年にわたり、プラテオサウルスは重い体を支えるために「四足歩行を基本とし、時折立ち上がっていた」と信じられてきました。しかし2000年代以降の骨格関節可動域の研究により、プラテオサウルスの前肢は手のひらを地面に向ける回内運動(プロネーション)が解剖学的に不可能であり、前肢を地面について歩行することはできなかったことが判明しました。彼らは生涯を通じて「完全な二足歩行恐竜」だったのです。
長い尾を後方に水平に伸ばして巨大なバランサーとし、力強い後肢だけで体重を支えて歩行していました。前肢は移動のためではなく、完全に「物をつかむ(把握)道具」として特化していました。親指の巨大な鉤爪を使って高木の枝を手繰り寄せ、小さな頭骨に並ぶ木の葉型の鋸歯状の歯で針葉樹やソテツの硬い葉を効率よく刈り取っていました。また、この前肢の鉤爪は同種間の闘争や、当時の肉食爬虫類(ポストスクスなどの偽鰐類)に対する強力な自衛用武器としても機能しました。
最新の古生物学知見とボーンベッドが明かした驚異の発達可塑性
ドイツのトロッシンゲンやスイスのフリックにあるプラテオサウルスの大規模な集団発掘地(ボーンベッド)からは、泥沼に足をとられて化石化した数百頭にも及ぶ完全骨格が発掘されています。これらの膨大な標本を対象とした骨組織学(オステオヒストロジー)解析により、恐竜進化における極めて重要な事実が判明しました。
マーティン・ザンダー(Martin Sander)博士らの研究チームが骨の成長停止線(LAGs)を解析した結果、プラテオサウルスは個体によって成長速度と最終到達サイズが劇的に異なる「発達可塑性(developmental plasticity)」を持っていたことが明らかになったのです。ある個体はわずか全長4.8メートル(体重約1トン)で成長を停止して成体となった一方、別の個体は全長10メートル(体重約4トン以上)まで成長を続けていました。これは現生の哺乳類のような厳密な遺伝的サイズ決定ではなく、生息環境の食料事情に応じて柔軟に成長を適応させる初期恐竜ならではの戦略であり、その後の竜脚類の未曾有の超巨大化を可能にした進化的原動力と位置付けられています。