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ニューメキシコの荒野から甦った「ビスタヒの破壊者」:南部暴君竜の発見史
ビスタヒエバーソー(学名: Bistahieversor sealeyi)は、白亜紀後期(カンパニアン期後期・約7500万年前〜7400万年前)の北アメリカ大陸南西部、現在のアメリカ合衆国ニューメキシコ州北西部に生息していた大型の肉食恐竜(獣脚類・ティラノサウルス上科)です。のちに北米全土を支配するティラノサウルス・レックスが登場する約800万年前に、温暖な南部ララミディア大陸の頂点捕食者として君臨していた重厚なハンターです。
1990年代にニューメキシコ州サンフアン盆地のカートランド層(Kirtland Formation)から相次いで化石が発見され、1997年にはポール・シーリー氏がビスティ・デナジン荒野から完全に近い成体の頭骨と部分骨格(ホロタイプ標本 NMMNH P-27469)を発掘しました。長らく北方のダスプレトサウルスやアルバートサウルスの一種と考えられていましたが、2010年、トーマス・カーとトーマス・ウィリアムソンによる比較解剖学的解析によって独自の進化系統であることが判明しました。先住民族ナバホの言葉で発掘地域を指す「ビスタヒ(日干しレンガの遺跡の間)」とラテン語の「破壊者(eversor)」を組み合わせ、「ビスタヒエバーソー・シーレイ(Bistahieversor sealeyi)」と正式に命名されました。
実寸サイズと重厚なスケール:全長約9.0メートル・全高約2.8メートルの南部頂点捕食者
ビスタヒエバーソーの成体(ホロタイプ NMMNH P-27469)は、長さ約107センチメートルに達する巨大な頭骨と体幹骨格の計測から、全長約9.0メートル、水平歩行姿勢における腰高での全高約2.8メートル(頭頂高約3.0〜3.2メートル)、推定体重約2.5トン(約2.0〜3.0トン)に達したと算出されています。当時の北米南西部における文句なしの最大・最強の捕食動物です。
現代の成人男性(身長約1.7メートル)がビスタヒエバーソーの前に立った場合、人間の頭上を1メートル以上も見下ろす全高約2.8メートルの巨大な腰回りと、全長約9.0メートル・体重約2.5トンの圧倒的な質量が立ちはだかります。同時代の北方に生息していたゴルゴサウルスなどのアルバートサウルス亜科が細身で軽快な体型をしていたのに対し、ビスタヒエバーソーははるかに骨太で筋肉質な体幹を持っており、小さな2本指の前肢と強靭な後肢でバランスを取りながら大型草食恐竜を正面からねじ伏せるパワー型のハンターでした。
上下に深く発達した重厚な頭骨と64本の歯・眼窩上の追加開口部が示す独自の進化
ビスタヒエバーソーの解剖学的構造において最も重要な点は、本種が厳密な意味での「ティラノサウルス科(Tyrannosauridae)」の直前に分岐した派生的な「ティラノサウルス上科」でありながら、大型ティラノサウルス科に匹敵する「上下に深い重厚な頭骨(ディープ・スナウト)」を独自に進化させていたことです。
それまでの初期・中期のティラノサウルス上科は上下に低い細長い吻部を持っていましたが、ビスタヒエバーソーの吻部は上下に高く盛り上がり、上下の顎を合わせた歯の総数は「64本」に達していました。この深い頭骨と下顎後部の複雑な補強関節は、大型の獲物に噛みついた際の強烈なねじれ応力に耐えるための適応でした。さらに固有の特徴として、目の穴(眼窩)の真上にある後眼窩骨に「追加の開口部(窓)」が開いており、頭骨内部の空気の袋(気腔)と繋がることで、重厚な頭骨の重量を軽減する巧みな軽量化機構として機能していました。
南北に分断されたララミディア大陸の古生物地理学と南部固有の生態系
ビスタヒエバーソーが生息していた約7500万年前の北米大陸は、中央部の「西部内陸海路」によって東西に分断されていました。その西側の「ララミディア大陸」では、造山運動や気候帯の違いによって北部の温帯地域と南部の亜熱帯地域の間で恐竜が別々に進化する「州分化(プロヴィンシャリズム)」が起きていました。
温暖湿潤な沿岸平野であったニューメキシコ州(カートランド層)には、巨大な角竜類のペンタケラトプス(Pentaceratops)や、独特のトサカを持つハドロサウルス類のパラサウロロフス、鎧竜のノドケファロサウルスなどが独自の生態系を築いていました。ビスタヒエバーソーはこの南部王国の絶対的な頂点捕食者として君臨し、のちのティラノサウルス・レックスへと至る大型化・重武装化の道を切り拓いていたのです。