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名前の由来と生息環境・分類
バロサウルス(学名: Barosaurus)は、古代ギリシャ語で「重い」「重厚な」を意味する「バリュス(barys)」と、「トカゲ」を意味する「サウロス(sauros)」を組み合わせたもので、「重いトカゲ」を意味します。種小名の lentus はラテン語で「ゆっくりとした」「柔軟な」を意味します。1889年、アメリカ・サウスダコタ州のモリソン累層で発見された化石に基づき、古生物学界の巨人オスニエル・チャールズ・マーシュ(Othniel Charles Marsh)教授によって1890年に命名・記載されました。
生息年代は中生代ジュラ紀後期(約1億5,200万年前〜1億5,000万年前、チトニアン期)であり、北アメリカ大陸中西部のモリソン累層、およびアフリカ大陸タンザニアのテンダグル累層(Barosaurus africanus、現在はトルニエリア属とも分類される)に生息していました。当時の環境は豊かな針葉樹林と大河川の氾濫原でした。分類学上は竜盤目竜脚形亜目、ディプロドクス科(Diplodocidae)のディプロドクス亜科に属し、近縁のディプロドクスとは明確に異なる独自のプロポーションを進化させた超長頸竜脚類です。
人間との実寸サイズ比較・18メートルの直立姿勢が天を突く超高層ビルスケール
成体バロサウルスは、全長約26.0メートル、全高約18.0メートル、推定体重約20.0トンに達しました。三脚立ち姿勢をとった際の頭頂部の全高は約18.0メートルに達します。
現代の成人男性(身長約1.7メートル)との実寸サイズ比較において、バロサウルスが直立した際の全高約18.0メートルという高さは、現代の一般的な雑居ビルやマンションの5〜6階に匹敵する超高層スケールです。人間の背丈など、バロサウルスの巨大な足首から膝の高さにも届きません。
ニューヨークのアメリカ自然史博物館(AMNH)のセオドア・ルーズベルト・ロトンダ中央ホールには、我が子を守るために二本足で立ち上がり、襲いかかるアロサウルスを見下ろす実寸大のバロサウルス骨格が象徴的に展示されています。人間がその真下に立てば、見上げる首の頂点は遥か彼方の天井近くにあり、大地を揺るがす神話の巨人が目の前に降臨したかのような圧倒的な畏怖と感動を体感することになります。
生態と極限の首長化・ディプロドクスとの決定的なプロポーションの違い
バロサウルスは、全体的な骨格構造においてディプロドクスに酷似していますが、決定的に異なる進化の選択をしていました。ディプロドクスと比較して尾がやや短く軽量である一方、首の骨(頚椎)が極端に伸長しており、首の長さだけで全長26メートルのうち約10メートル以上を占めていたのです。
頚椎の数は16個でディプロドクスと同数ですが、一つひとつの骨の長さが著しく長く、強靭な靭帯で支えられていました。バロサウルスはこの長大な首を活かし、他の竜脚類が届かない高木の梢(ナンヨウスギやイチョウの高木)の葉を独占的に採餌していました。さらに骨盤と後肢が極めて頑丈に発達しており、強大な尾の付け根を第3の脚として地面に接地させる「三脚立ち」を容易に行うことができました。天敵のアロサウルスに襲われた際にも、立ち上がって前肢の鋭い鉤爪を振り下ろすことで、敵を容易に踏み潰して撃退できたと考えられています。
最新の古生物学知見と超高所への血流循環を巡る生理学的謎
バロサウルスの直立姿勢と超長頸は、古生物生理学において長年にわたる最大の学術的挑戦の一つであり続けています。頭部が地上15〜18メートルの高さにある場合、心臓から脳へ血液を送り届けるためには、現代のキリン(血圧約300mmHg)の数倍にあたる「約700〜800mmHg」という途方もない超高血圧が必要となります。
この謎に対し、コロンビア大学などの研究チームは様々な血流力学的モデルを提唱してきました。「心臓が巨大で極めて厚い筋肉壁を持っていた」とする説や、「頚部に血液を段階的に押し上げる動脈弁や副心臓的な筋肉組織が存在した」とする説、あるいは「立ち上がりは短時間の威嚇や防御に限られ、普段は首を水平よりやや高い角度で維持して血圧負担を軽減していた」とする説など、活発な議論が展開されています。恐竜の循環器系と重力への適応の極限を示す、生物学史上最も刺激的な研究対象です。
さらに、近年におけるティタノサウルス形類およびディプロドクス科の首の可動域シミュレーション研究では、バロサウルスの頚椎の内部構造が中空化と薄肉化の極限に達していたことが再確認されています。アメリカ自然史博物館に展示されている有名な立ち上がり姿勢(二足起立骨格)についても、尾椎の血道弓が支柱(第3の脚)として機能したことで一時的な起立採食が可能であったとする生体力学的再評価が進められており、ジュラ紀の超巨大恐竜の多様な適応形態を示す最重要標本として研究が続いています。